人を巻き込む力とかいう人騒がせ処世術の話。
結局、声がでかいやつが人を巻き込むって話。
人を巻き込む。
近年いろんなところで連呼されるあたかも普遍的に必須とされてきたかのような幅を利かせているスキルだ。
社会人用の自己啓発書にもこのテーマで書かれた書籍はたくさんあるし、就活中でも人事が連呼するのを何度も聞いた。
が、現実は面倒である。
そこのお前の会社の人を巻き込む話
ある辣腕プロジェクトマネージャーがいた。
そのマネージャーはかなりビジョナリーなマネージャーだった。
実務よりの話ももちろんいざとなればできるのだが、常にゴールや将来の話などを重視する未来志向なタイプの人間だった。
それゆえ、リソースの調達や部下のマネジメント・ステークホルダーへの説明においては夢を語ることが抜群にうまい人だった。
その力だけでもプロジェクトマネジメントには向いている。
同時に計画性・戦略性に優れた人だったので実際にチームを動かしていく中でも非常に効果的にチームをコントロールし、動かすことができる人だった。
実はそのマネージャーの本当の強さはそこだった。
とても目立つ未来志向をもとにした対人折衝能力ではなく、実際に今ある現実からゴールまでの明確な道筋とそこまでの到達の仕方を描くことができる点だった。
この部分を信頼する経営層は苦しいプロジェクトは全部彼のものにしたものだ。
そんな人だったから彼と共に働きたいと願う人はとても多かった。
自然と彼に力を貸す人は多かったし、いやいやでも強引にやらされたわけでもなく、全員が進んで協力していた。
そんな中、そのマネージャーに憧れる一人の人がいた。
だが、彼は見間違えていた。
その人の本当の強さではなく、目立つ人を巻き込む未来志向な部分だけをマネしてしまった。
それからというもの、人を巻き込むことに傾注していくわけなのだが、そう単純にはいかないし、そもそも万能なスキルでもない。
このスキルの練度の高さは、重要なタイミングで重要な人に重要なことを伝え、重要な力を必要なだけ借りる為に自分の持てる人脈やネットワークを活かすことを指す。
断じて「何でもかんでも大騒ぎして、人騒がせに立ち振る舞い、結果的に自分に都合よく丸く収めてめでたしめでたし」をすることではない。
わざわざ毎回得点圏までランナーを出しても無失点に抑えるピッチャーと三者凡退で抑えるのピッチャーを比較してしたら後者を評価すべきに決まってる。
人騒がせと人を巻き込むというのは紙一重
人を巻き込むつもりが人騒がせになってしまうことはよくある。
人騒がせなピッチャーで登板したはいいが、挙句、ピンチを招いて降板し、その後登板したピッチャーに抑えさせるようなもんだ。そのピッチャーが抑えたとしても本当に使いたかった場面で使えたかというと疑問符が残る。
予定では次のイニングに投げるピッチャーをムダに早く投げさせるわけだ。
場合によっては回跨ぎさせて後で打たれることだってある。
が、この時記録、評価が悪くなるのは本人ではなく、後続のピッチャーだ。
実は見えないところで他の人に余波を与えているケースがあり得る。
だから人を巻き込むことばっかり考えても、現実はそううまくはいかない。
実際、その人も散々騒いだ挙句に人の手間だけとって、自分のところだけ何とかして、他を疎かにさせるような実態が出てきた。
自分のプロジェクト専任ではない人に他の仕事をおろそかにさせて影響を出したり、プロジェクト進捗の粗さや完成度が低い部分のカバーをプロジェクトメンバー外の人も含めて奔走させたりなどした。
ややお騒がせモードに入りつつも、プロジェクトがいったん完結してしまえば残るのはプロジェクトリーダー・マネージャーとしての功績になりがちな環境も相まって、あまり光の当たらないたくさんの人の苦労があった。
だが、その人は昇進した。
結果、憧れたプロジェクトマネージャーと肩を並べるポジションになった。
そのクオリティには圧倒的な差があるが、それでも昇進を勝ち取り、部下を持つ存在となった。
そして、彼は人を巻き込む力について勘違いしたまま今日も他人から労働力と時間をいかに獲得するかを考えている。。。
これが得体の知れない人を巻き込むスキルがもたらす闇の部分だ。
きちんと全体を見た上での巻き込み方であればいいが、限られた人的リソースの綱引きに強いだけだと質が悪い。
自分のやっている仕事の重要さがそれほどでなくても大げさに見せて他人の力を借りる。
自分自身で何とかすべき仕事のはずなのに、他の人の時間と手間を使って自分は楽をする。
人との心理的な駆け引きだけで人に自分の仕事をさせる。
こういうケースは普段身の回りに山ほど溢れている。
自らの仕事や行動に価値を感じさせ、説得力を持った形で人々から協力を得るという
この人を巻き込む力だけに傾注し始めると本質を見失う。
ただただ人に自分を特別扱いさせようと必死になることになる。
一つの仕事を達成するためにいろいろなことをみんなにやってもらいました。
だから人を巻き込む力があります!
こうなっては意味がない。
順序が逆である。
そして、こういったクレクレ人種に力を貸していると知らぬ間に人生の時間やパワーを吸い取られてしまう。
もちろん、それが幸せな場合はそれでもいいのだが、それが美徳ではないことも認識しておいた方がいいかもしれない。
酷い場合には正直者が馬鹿を見る搾取的状況に陥りかねない。
こういう人種は他人の善意に意識的にも無意識的にも依存する。
そして、それでいい物だと思っている。
いつしか当然だと思うようになる。
そして、例のように人の力をいかに効率よく借りるかばかりを考える人になる事だってある。
だがそれは長続きしない。
とっかえひっかえ依存先を変えるだけだ。
自分にはこんな目標やゴールがありました。
自分一人ではできないものでした。
だけど、目標とゴールに共鳴した人たちと一緒に努力を重ねました。
結果的にたくさんの人とかかわりを持てました。
この流れでなければならない。
このスキルが独り歩きしすぎて、何人の人の助けを借りたか、どれだけの人の助けを借りたか?という指標だけで判断するマインドを持つと非常に困る。
結局、重要なのは巻き込んだ先に何があるかだ。
人を巻き込む力
この言葉が独り歩きすることで本当の意味とは違う誤解を生んでいる可能性がある。
この点には気をつけなければならない。
就活生も頭に入れておく必要がある。
人を巻き込む力を連呼する人が本当に意味を理解して発しているのかを。
本当は自分の目指す価値やゴールに共鳴し、力を貸してくれる人を増やす力であるべきなのだ。