そこのお前の外資系勤務と与太話ブログ

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【仕事】中途半端な働き方改革のうすら寒さの話【キャリア】

ある社員がいた。

 

彼は非常にストイックな人間だった。

 

仕事は常に全力で取り組み、手を抜くことをせず、他の人よりも会社に対して貢献する意識を高く持って仕事に打ち込んでいた。

 

長時間働くことを目的とはしていなかったが、それ自体は悪とは思わず、効率が落ちたり、やる気が落ちない可能な限りで個人の時間をつぎ込んでいた。

 

そんな彼だから、仕事では自然と多くの人が彼の周りに集まった。

いろんな仕事が生まれたり、シナジーが生まれる中心に彼もいた。

 

だが、会社は働き方改革全盛のイマドキの会社だった。

 

残業は30時間までにすること!給料は減ったままだけど。

 

ビジネス目標は成長路線を維持・拡大します!人は増やせないけど。

 

自動化とAIを促進します!それをやる人手は追加しないけど。

 

などといった数々の矛盾を抱えていた。

 

当然、徐々に会社での歪みは生まれ、どこかにしわ寄せがくる。

そんな状況にあっても、彼は苦しい顔をせず、自らのできることをやり続けた。

 

すると、彼には自然と負荷の高い業務が追加で集まるようになっていった。

 

なぜなら彼はこなせてしまうからだ。

 

それゆえ、とある緊急事態に対処するために彼に緊急の異動が命じられた。

会社側が苦し紛れに出した期間限定の対処策だった。

 

彼は受けた。

彼は複数の上司に同時に仕えながら、新たに追加された業務の前任からの引継ぎをこなしながら、元々の業務も回した。

 

結果的に労働時間は社内で最も長くなり、役員会で目に留まるようになった。

 

彼もそのことは知っていたし、彼自信も限界を感じつつあったので、残業を減らしていくのに必要なアクションと期間・計画を自ら用意していた。

 

会社から指摘を受ける前から明確に出来上がっており、業績に影響を与えないように順を追って実行し始めていた。

 

そんなことはつゆ知らず、役員会での検討後、役員はまず最初に直属の上司が彼に注意をするように指示した。

 

だが、上司も仕事を振っている手前、そう強くは言えなかったし、何よりここで手を引いては会社に深刻な影響が出かねないことから、躊躇っていた。

 

結果、次の月の役員会でも彼の残業時間が以前高い水準にあることが分かった。

 

今度は部長が彼に直々に注意をすることになった。

同時に目標時間を設定し、その時間以内に残業を抑えるように指示する手筈になった。

だが、部長も彼の抱えている業務の重要性と緊急性の観点から強く言えなかった。

 

そして、その次の月、役員会はまたざわついた。

結局、彼の残業時間が役員が勝手に定めた目標時間を超えていたからだ。

 

部長、上司がその場で𠮟責を受け、説明を求められた。

その結果、社長が彼個人と面談し、事の重大さを伝えることになった。

 

社長は予定通り面談を行った。

それは当然、会社として放置すれば労災の発生または労基署に刺されかねないリスクだからだ。

社長はそれらのリスクを説明し、残業時間を普通の時間に戻すように迫った。

 

だが、彼は不服だった。

いかに彼の残業削減計画を説明しようが、自分自身の重要性を訴えようが、次の月には残業をなくせという返答しか返ってこなかったからだ。

この業務量は会社から指示が出ているものなのに会社から怒られる矛盾と自分が最もよく業務をこなせているという自負から大きな失望を感じた。

 

結果、担当部長と再度相談して業務量調整をしなさい。と社長からは指示された。

 

そもそもどうして彼がその指示を直接受け取るのかは不明だったが、まぁ言われた通りやるか。

 

ということで、部長のところに行った。

 

そして、彼は言われた。直属の上司と相談して個々の仕事を決めなさい。と。

彼は元から何も期待していなかったが、諦めたように了承した。

 

そして、直属の上司と時間を取った。

すでに彼はこの件の無意味な問答で余計に数時間を取られているため、それもストレスだった。

 

上司もこの状況を理解しており、複数の業務の受け渡しと計画建てを行ったが、結果は彼の元々の想定していた計画と同じものだった。

 

そして、さらにその次の月。

役員会は騒然となった。

 

彼の残業時間が増えていたのである。

社長は怒り狂った。

 

実態は、元々予定されていた追加の業務の引継ぎと旧業務の受け渡しで一時的な時間上昇が運悪く重なったのだ。

そこに加えて、上記のグダグダがあるものだから、余計に増えた。

 

そして、とうとう人事部長が上司と彼を呼び出し、叱責を与えることになった。

彼はその場で叱責をうけた。

 

同時に、彼は彼を支えてきた最高水準の豊富なバイタリティが自分の中で一気に萎えていくのを感じた。

 

それも当然のことだ。

 

彼が全力を尽くして貢献しようとしていた会社からその尽力を怒られているのだ。

上司はそれを察して言った。

 

「まぁ、ここで全部の結果を諦めて残業をなくすのは簡単でしょう。

どうせ多少ダメージを受けて業績が下がっても、全員のボーナスが下がるか、不満が噴出しながらも他の人がしわ寄せのカバーをしながら会社は回っていくものです。

 

ですが、彼は不要に残業しているわけでもなければ、長時間働いているにもかかわらず他の人に比べて判断力やスピードが劣っていることはありません。 

それどころか、他の過重残業者の残業を減らす効果すらもたらしています。

だから、他の人に残業させるよりもよっぽど効果的だと誰もが判断するわけです。

 

実際、彼が貢献した分を全部取っ払って、会社の業績が多少伸び切らなかったところで構わないという判断ができた部長・役員陣は何人いたでしょうか。

人事部長、あなたが仮に決定権者だったとして、業績による自らの評価も含め、会社の業績達成を諦める勇気を持てるでしょうか?

 

それを諦めるように経営陣・管理職に促すような社風・報酬システムや人事システムになっているでしょうか。」

 

と。

 

人事部長は少し冷静になり、ヒートアップした態度を抑えて言った。

 

「それでも、彼に何かあった時に会社は責任が取れない。今すぐこの状況をやめるべきだ。」

 

と。

 

上司はあきらめたように繰り返し説明した。

そして、彼の残業時間を止めた場合の会社業績への直接の影響も数値で概算し、示した。

 

最後にこう付け加えた。

 

「当然彼に代わる人間を探すにしても、採用や異動引継ぎ等にいくらかは時間を必要とするため、すぐにはできません。同時に、今すぐやめた場合にはこれだけのダメージが発生します。

 

それでも今すぐ彼の残業をなくしていいと本当に判断できますか?

それでよければ会社の判断として、私も従います。

ですが、すでに彼には計画があり、沈静化する予定であって、そこの自己管理と沈静化については誰よりもしっかり練り込んでいるようです。

 

それでもあなた方は全部無視して彼の気概と尽力を否定するんですか?」

 

今度は毅然として述べた。

 

人事部長はそこで会社が突き付けている要求同士の足並みの揃わなさを初めて理解した。

ここで、議論は打ち止めになった。

 

結局、彼の当初の計画通りに事態の収束は図られ、直ちに問題があるという重篤な状況を切り抜けた。

 

 

 

このストーリーと登場人物の中で最も問題なのはなんだろう?

 

無計画に怒り狂う社長だろうか。

 

大局観のない人事部長だろうか。

 

何もできない担当部長だろうか。

 

仕事を振り、彼の肩を持った上司だろうか。

 

常識の範囲を超えて仕事を受けまくって、頑張る社員だろうか。

 

それとも人事制度?採用計画?業績目標?

 

どれか一つということはないだろうが、登場人物の中で不要な仕事や業績目標を諦めることができる勇気を持った人は一人もいなかった。

それどころか短絡的な叱責の連続で結果的に優秀で力量のある社員の会社への貢献心を奪った。

 

 

働き方改革にはそういった目標部分や業務状況の現状分析アプローチが欠如することが往々にしてある。

 

それに、現場社員から社長まで目標より人の健康が重要だと言いきって業績への影響を飲み込めず、過重負荷をやめさせられない場合があり得る。

 

今のままでは労働者が自分で強引にストップしない限り、管理職と経営陣はどうしてもビジネスの結果を優先するように偏る。

 

すると、逆に管理職と経営陣は彼らにとってのリスクの範囲でしか社員を見られないようになる。

 

時代の流れに乗って業務時間目標を定めたものの、業務自体への手入れはおろそかになっている。

 

なぜなら管理職・経営陣の評価には直接的には関係ないからだ。

 

故に、部下が自分たちでやるものだとすら思っている。

 

これこそが現場社員が働き方改革に対して抱くうすら寒さの正体である。